4-4 分子集団研究系
国内評価委員会開催日:平成11年11月26日
委 員 木下 實 (山口東京理科大,教授) 鹿児島誠一 (東大院総合文化,教授) 小林 速男 (分子研,教授)
藥師 久彌 (分子研,教授) オブザ−バ 中村 敏和 (分子研,助教授)
米満 賢治 (分子研,助教授) 井上 克也 (分子研,助教授) 山下 敬郎 (分子研,助教授) 鈴木 敏泰 (分子研,助教授) 国外評価委員面接日:平成12年1月8日
委 員 Professor F red W udl (University of C alifornia at S anta B arbara)
4-4-1 点検評価国内委員会の報告
分子科学研究所創設以来25年の間に分子集団関連分野の学問領域は著しい発展を遂げ,現在では分子物質は物性分 野において酸化物とともに主要な物質群と見なされるようになった。我国の分子物質の物性研究は長い伝統をもって いるが,その研究領域は近年,物性理論から合成化学に跨る一大分野を形成するに至っている。分子科学研究所にお ける関連分野の研究は我国内外から高い評価を得ているものと思われ,分子科学における本分野の重要性は大きく,今 後一層の発展が望まれる。
個々の研究についてはルーチン化したやり方だけではなく,掘り下げた深い仕事を生み出す努力をする必要がある。 この点に関連して,前回の点検評価に際しても指摘されたことであるが,教官の研究環境,特に多忙さについての改 善の必要性が非常に大きい。研究室の体制に関しては,助手,技官層の一層の充実が望まれるが,其れは一般的に非 常に困難な事態である。特に最近,相対的な助手の定員数が減少して来て,転出した前任者の助手が残っている為に, 新任教官が共同研究者を持てず,成果を挙げにくい状況が生じている事は問題である。一つの解決策として,博士研 究員の充実が望まれる。
前回の96年度の点検評価の時点は,分子物質開発研究センターの設立直前に当たっていたこともあり,「分子物質開 発研究センターを含めて,分子集団系全体として分子物質研究の新しい柱を立てる必要性」が述べられていたが,セ ンターが当時構想したように機能しているかを点検し,可能な時期に改善していくことが必要である。分子物質開発 研究センターはその設立の構想そのものがそれ以前の分子集団研究系の点検評価の中から生み出されたものであり,こ れは点検評価作業が研究系の将来の発展計画にとって極めて重要な役割を果たしてきたことを示すものでもある。ま た,外部の点検評価に関連して,これまで点検評価の際に指摘された問題点に対して,分子科学研究所としてどの様 に対応し,解決しようとしてきたのか,あるいは,外部の評価に対してどの様に釈明し,それに対して反論,説明が あったのかなどについて外部の研究者に判る形で示す事が重要である。
客員部門の役割に関しては,客員教官として分子科学研究所で実際に研究を行い成果を出す事の他に,研究会等を 通して,研究分野の活性化に寄与するという側面とがあり,後者に関しては内部の教官の間ではその重要性が認識さ れているようであるが,外部の研究者からはむしろ前者について,「分子科学研究所に客員制度があるので出来た」と
いう成果が得られるような状況の実現が望まれている。
分子物質の研究分野における分子科学研究所に期待される役割の一つとして,「興味深い分子物質のサンプルの供給」 に関する役割がある。前回の点検評価に際して「分子科学研究所で良いものを作り,外部の研究者に広く供給するよ うに」との指摘があった。現在では分子物質の物性分野では「物理」と「化学」が完全に融合しているが,なお測定 試料を供給する化学者のやり方に二つの立場がある。即ち,興味を持つ研究者に無差別的に幅広くサンプルを供給す る立場と共同研究者を絞り供給し研究を進める立場があり,測定試料の配布については「分子物質」に対する化学者 と物理学者の認識の差が完全に埋まる段階までには至っていない事を示唆している。これは「物質開発」と「物性解 明」のいずれの段階に重点を置くかという事とも関わっているが,特に分子物質開発センタ−に対しては今後とも外 部より試料供給源としての機能が期待されるものと予想される。しかし,現実には各研究室が人員的にその役目を充 分果たせる体制にはなく,対応が難しい状況にある。この問題は共同利用機関における分子物質研究の拠点としての 役割との関連において継続的な課題となっていくものと思われ,何らかの具体的な対応が望まれる。いずれにせよ分 子性固体について,合成から理論に亙る広い分野の研究者が集まれる場所は世界的に稀であって,分子科学研究所は 世界的にも重要な位置を占めている。今後,物質科学としての「分子」の研究が益々重要性を増すものと思われるが, 今後とも他分野に影響を与え続けられるよう,構成員が自ら考えるべき新しい時期にさしかかっている様に思われる。
4-4-2 国内委員の意見書
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現在,この分野の研究は,当初の目標をほぼ達成し一段落した時期のように思われる。この時期に,分子科学研究 所がこの分野でどのような方向を目指しているのかが必ずしも見えていないのが残念な気がする。もちろん,これま での成果を踏まえて,その延長上の研究もしなければならないし,やり残してきたことを詳細に研究することも大切 であり,そこから新しい問題が発展する可能性も高い。その意味では,次の発展への誘導期と考えた方がよいかも知 れない。しかしながら,このような時期の研究は,前回の外部評価でも指摘されたようにルーティンな研究と見なさ れる。このようなルーティンな研究がよくないというのではなく,そこからの発展が期待されるという意味で必要で ある。しかし,世界的な視野から研究を主導する立場にある研究所では,ルーティンな研究を進める一方で,次のター ゲットをどう考えているかを発信することも要求される。
分子集団関連研究分野には,理論も含めて7人の所員が関係しており,それぞれに多くの優れた発表論文があり,活 発に研究を進めていることは高く評価できる。しかし,発表論文を拝見すると,若干の共同研究が見られるけれども, グループ間の交流は必ずしも十分でないような印象を受ける。世界的に見ても,一つの機関でこれだけの人員をこの 分野に割り当てているところはほとんどない。それだけに,グループ間で相補的に協力しながら研究の日常的な交流 を積極的に行い,効率のよい研究発展を図ることが望まれる。グループ間の日常的な交流を通して,研究所における
研究のあり方,あるいは現在のメンバー(近い将来の人事も含めて)で行えるこの分野の発展の方向などが見えてく るのではないかと期待している。研究所の研究室では,大学の研究室とは違う面があるはずで,その特徴を十分に活 かして欲しいと思う。
このことに関連して,人事公募のあり方について「分子研リポート’98」の中の議論で,いろいろな考え方が述べら れているのを興味深く読んだ。いずれの意見もそれなりに解るけれども,やはり研究の方向を決めるのは,分子研自 身であり,分子研が何をやりたいかがあって,はじめてどういう人を求めようかとなるのが本筋ではないかと思う。そ れには,多くの人の意見を参考にしながら,現有のメンバーで常に提案・討論を繰り返し,自分たちで何ができるか, その時にこういう人材がいたらもっと能率があがりそうだ,新しいことが生み出せそうだという観点から進めるのが よいのではないかと思う。研究所は,研究する大きな課題がなくなったら,存在意義を失うので,そのくらいの緊張 感をもって研究を開拓していって欲しい。このことは,研究分野についてもいえることで,場合によっては別の分野 に乗り換えることも視野に入れて,広い立場から真剣に議論するべきことであろう。
共同利用に関しては,毎年相当数の施設利用・協力研究などを受け入れ,教職員の負担は大変なものであろうと思 われる。利用する側からの意見になるが,共同利用を有効に機能させるには,まず上述のように研究所や研究室とし ての旗印がはっきりしていることが重要であり,考え方,測定法,機器などに何か特徴がなければならない。現在の ように,どこの大学にも種々の機器が充実してきた段階では,何か特徴のある装置や機器が必要になるし,特殊な測 定ができることが望まれる。とくに化学関係の場合には,市販の装置で大抵の測定は間に合うことが多いので,これ はかなり難しい注文かも知れないが,共同利用機関では,可能な限り最高級の装置を設置するとか,大学で購入する ときには省略せざるを得ないような付属品(オプション)を揃えるように心がける必要がある。その他,最近では極 端条件下(超極端である必要はない)での各種測定が必要なことが多いので,このような需要にも対応できるように 計画することが望まれる。
共同利用について,次に重要なことは,優秀なスタッフと支援職員であり,両者の時間的な余裕であろう。共同利 用できた研究者に,単に測定や合成の便宜を提供するだけでなく,その結果について互いに十分な討論をする余裕が 欲しい。事務的なことや雑務的なことをできる限り簡素化・機械化し,利用者との対応ではポスト・ドク,院生にも 手伝ってもらい(もちろん,その成果は院生等の成果にも及ぶ),そのうえで人員増を望む以外に,この問題を解決す る名案はない。
これと関連して,客員制度がやや形骸化しているような印象を受けた。流動部門と同様に所内でも議論をしている のであろうが,客員部門のあり方,成果の帰属,発表の方法など検討して欲しい。
早いもので,私達分子科学を志してきた者が大きな期待をもって創立を見た分子科学研究所も,今年西暦2000年4 月で25周年を迎える。分子研と付かず離れずで見守って来たが,その期待に応えてくれた分子研に拍手を送りたい。し かし一方で,分子研の第一世代が過ぎようとしているような気がしないでもない。時代の流れが速いだけでなく,学 問の進歩も一段と加速されている現在,次なる新しい研究分野を設定することは容易ではない。しかし,研究するこ とがなくなった訳ではなく,むしろますます難しくなり,挑戦しにくい課題が残されている。それだけに息の長い挑 戦をする機会が訪れているともいえる。春秋に富む中堅・若手の人たちに,常に開拓者精神を失わずに,困難な課題 に挑戦してもらいたい。
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いまや分子性物質は,物性科学の中で酸化物とならぶ主要な物質群となった。これを象徴的にあらわしているのが, 超伝導や強磁性をもつ分子性物質の合成・発見である。およそ物性科学の教科書に登場する物性現象で,分子性物質 で演じられないものはないといっても過言ではない。それどころか,電子系の低次元性やフェルミ面に関係するいく つもの物性現象など,在来の物質では知られていなかったあらたな物性科学の世界が広がっている。
これからの物性科学において分子性物質への期待は大きい。特に,新物性・物質の設計が今後の物性科学の主要な 方向になると考えられ,この点で分子性物質は大事な役割をはたさなければなるまい。今後は「分子性物質でもでき た」というだけでは評価されず,「分子性物質だからできた」といえる段階に進むことが要求されるであろう。
この分野での分子研の研究グループの寄与は大きい。研究成果においては,いくつかの全くオリジナルな成果があ げられており,現在,世界で進行している主要な研究のかなりの部分は,分子研グループがその中心となっている。ま た,組織的・地理的な研究センターとしての役割においても,この分野における分子研は,世界的に主要でユニーク は研究所として認知されている。
それでは分子研グループの研究の今後にまったく問題がないかといえば,もちろん,そうは言い切れない。研究に は広がりと深さが求められる。まず広がりについては,物質開発を必須とする分子性物質の研究において,物性の精 密測定を専門とする研究者との協力が必須である。その際に2つの態度がありうる。ひとつは,「来るものは拒まず」 と,希望する研究者にはひろく試料を提供するやり方である。この方法の長所は,大事な発見を狭い範囲に閉じ込め ることなく多くの研究者に公開できるので,切磋琢磨によって研究の発展が望めることである。短所は,多くの試料 がブラックホールに落ち込んだかのように,試料の提供先から何の反応も返ってこないという危険があることであろ う。もうひとつの態度は,試料提供先を選別して限定することである。これの長所と短所は,ちょうど,先のケース の裏返しである。この二つの態度のはざまで,場合に応じて適切な選択をすることが求められる。
つぎに,研究を深めるには,まず優れた理論家との共同が不可欠である。「分子性物質でもできた」から「分子性物質 だからできた」に進み,物性科学の世界にその成果を残すには,物質や実験技術にとらわれない立場から,研究の成 果を物性科学の体系の中に位置付けることが必要である。いっそう多くの理論家をまきこむことが望まれる。次に,研 究成果の発表そのものに深さを印象付けることが望ましい。分子研グループの研究成果は華々しいので,論文誌以外 にも多くの国際会議などで報告を求められる。その結果として,ひとつの研究にまとまった論文の形をもたせる暇が なく,他の研究者がその成果を参照・引用する際に,結局,どの論文が重要なのかを見極められない,ということが ありそうである。これはあたら重要な成果を拡散させることになる。
(2)共同利用機関としての現状と将来への提言
研究資金の増大のおかけで,いまや多くの大学・研究機関では(昔に比べると)機器が充実してきている。このた め多くの研究所で,かつて果たしていた機器センターとしての役割が消滅してきており,分子研も例外ではない。ま た語弊を恐れずに言うならば,設立から25年を経て,研究者集団としての役割も変容してきた。設立当初は関係者の 間に緊張感と一抹の不安が共有され,研究所としての成果をあげることに邁進されたであろう。これが現在の分子研 の大きい成果に結びついたに違いないが,これからは,そのような運命共同体的な一体感とは,質的に異なったもの が,求められるのではなかろうか。それは研究所が「所」という組織としての成果をめざすのではなく,一つの構想を 持った研究者がある期間,集中的に研究を進めるための「器」の役割を果たすことである。この点において,分子研 が堅持してきた任期制は,今後いっそうその重要性が強調されなければなるまい。
すでに述べたように,研究の広がりと深さを得るためには共同研究が必要であり,分子研グループの中にはその仕 組みがすでに用意されている。これをいっそう活性化することはもちろん必要である。しかしながら,「協同」は義務で
なされるものであてはならない。所内のグループ間の協同が必然的に生じることが,もっとも望ましい。これにこだ わることなく,所外のグループとの協同も同様に重視されるべきであるが,もっと望ましいのは,ある期間,外部の 協同研究グループがそっくり所内グループとなることであろう。分子研が現在用意している客員制度の運用を,さら に工夫することによって実現できるはずであるが,これをきっかけとして,外部にポストと予算の柔軟な運用を働き かけることが必要であろう。それが可能になる条件が整ってきているのではないか?
(3)点検評価について
最後に,点検評価制度そのものについて,若干の思いつきを記しておきたい。今回の点検評価に際して,「分子研リ ポート」に掲載された前回の点検評価の報告書を拝見した。しかし,そこに指摘,提案されていることに対して分子 研がどのように考えるのかは公表されていない。説明や反論・釈明などをし,オープンに対応したほうが内部的にも 外部的にもよい結果を生むのではなかろうか。
4-4-3 国外委員の評価
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Fred Wudl (University of Calfornia at Santa Barbara) January 15, 2000 Introduction
On January 8, 2000 I interviewed the groups of Yakusi, K. (Department of Molecular Assembly), Nakamura. T. (Department of Molecular Assembly), Kobayashi, H. (Department of Molecular Assembly), Inoue, K. (Department of Applied Molecular Science), Yonemitu, K. (Department of Theoretical Studies), Yamashita, Y. (Research Center for Molecular Materials) and Suzuki, T. (Research Center for Molecular Materials)
The premise that the IMS at Okazaki is clearly the premier center of research on molecular materials in the world holds true today even more so than it did at the time of the last review (1996). It is a unique institute, especially in a worldwide environment where institutes dedicated completely to the pursuit of fundamental research are decreasing in number.
Even though their size ranges only in 3 to 7 members per group, the scientists and their associates I reviewed are performing excellent research on various aspects of the science of molecular solids. The spectrum of interest of the research groups ranges in variety from organic synthesis to very high-level condensed matter physics theory.
The general impression is that all scientists are strongly motivated and their results are at the cutting edge of their respective fields. The main topics being explored are molecular semiconductors, metals, superconductors and ferromagnets. The overwhelming emphasis is on organic conductors. This is very likely historical as a result of the efforts of Prof. Hiroo Inokuchi, whose pioneering contributions were in organic conductors.
R ec ommendations 1. S c ienc e
Though organic superconductors based on the TTF family are still producing interesting condensed matter physics results, such as reentrant and coexisting superconductivity, I believe this may be the time to move on to other systems and, for example, give somewhat more emphasis to organic SEMICONDUCTORS. The only group studying some aspects of these is the T. Suzuki group.
In terms of chemistry, physics, and materials science; the semiconductors, whether small molecule or polymeric, are currently the most interesting systems. In that vein, one wonders if the “molecular fasteners” examined briefly by Professor Inokuchi, some time ago, should be investigated as possible TFT’s (thin film transistors).
2. Personnel
If one were to use similar research institutes in the United Sates as models (Lucent, IBM); then the size of the research groups is adequate, assuming that the groups of the young professors will grow to the size of the H. Kobayashi and Y. Yamashita groups. On the other hand, the groups at the Max Planck Societies (Institutes) are larger.
As already mentioned in a previous report (P. Cassoux, 1996), it is important for IMS to improve its student recruitment. This will help attract top Assistant and Associate Professors and will help the existing Professors carry out their research more expediently.
Summary
The IMS enjoys an excellent international reputation for the research performed on molecular solids. The only area which needs to receive more attention is the chemistry and physics of organic semiconductors, both as small molecules (TFT’s) or polymeric. There exist already several ties to international groups but to strengthen these, the establishment of a prestigious international fellowship for foreign graduate students to perform part of their thesis research at Okazaki and Japanese students to spend at least one year abroad should be established. This would be an additional mechanism to increase the student population at IMS.
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F red W udl 2000年1月15日 はじめに
2000年1月8日,分子集団研究系の薬師,中村,小林,相関領域研究系の井上,分子基礎理論第四部門の米満,分 子物質開発研究センターの山下,鈴木グル−プのインタビューを行った。
分子科学研究所が世界で第一級の分子物質の研究センターであるということは,むしろ前回の点検評価の時点(1996 年)以上に,明らかに今日でも真実である。また,分子科学研究所は基礎研究を追求する研究所の数が減少すると言 う世界的な状況の中でユニークな存在でもある。
グループの構成員のサイズは3から7名程度であるが,私がレビューしたグループは分子性固体科学の種々の方面 で非常に優れた研究を行っている。各グループの興味は有機合成から高いレベルの固体物理理論まで広がっている。 私の全般的な印象としては,すべての研究者は強いモチベーションを持っており,彼らの研究結果はそれぞれの分 野での先端的なものである。主なトピックスは,分子性半導体,金属,超伝導体,および強磁性体であるが,圧倒的 に強調されているのは有機伝導体である。これはおそらく有機伝導体のパイオニアである井口洋夫教授の努力の結果 による歴史的背景をもつものであると思われる。
勧告 1.科学
T T F骨格を持つ分子より構成されている有機超伝導体では「リエントラントや共存的な超伝導」(reentrant and coexisting superconductivity)(訳註:超伝導‐ 絶縁体転移を示す有機超伝導体や,反強磁性秩序と超伝導が共存する有
機伝導体の事を指していると思われる)などの興味深い固体物理上の成果が現在も得られているが,私は有機半 導 体半 導 体半 導 体半 導 体半 導 体 のような他のシステムにそろそろ重点を移してもいい頃であると信じている。これに関連する研究を行っているのは 鈴木グループのみである。化学,物理,および物質化学の分野において,低分子あるいは高分子の半導体は,現在最 も興味深いシステムである。そのような研究の流れに関して,井口教授によって研究された“ 分子ファスナー” は,薄 膜トランジスタとしての可能性を調査すべきではないかと思われる。
2.人員
L ucent, IB M のようなアメリカの同様な研究所をモデルとするならば,分子研の研究グループの大きさは,若い教授・ 助教授のグループがいずれ小林,山下グループの大きさに成長すると仮定するならば,適当なものであろう。しかし, マックスプランクの研究グループはこれより大きい。
C assoux 教授が前回のリポートで述べたように,分子研にとって学生のリクルートを改善することが重要である。こ れはトップクラスの助手・助教授を引き付けるのに役立つし,すでに在籍している教授の研究を遂行するのにも役立 つであろう。
まとめ
分子研は,分子性固体の研究において優れた国際的名声を得ている。より注目すべき唯一の分野は,低分子あるい は高分子の有機半導体の化学と物理である。海外のグループとのつながりがすでに存在するものの,これらを強める ため,外国人大学院生が博士論文研究の一部を分子研で行えるよう,また,日本人学生が最低1年間,海外で研究で きるような国際奨学金を確立すべきである。これは,分子科学研究所での学生の数を増やすことにもつながるであろ う。